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いつかのはじまり

身体は変に軽く、そして力無く。
心は熱を失い、酷く冷静になっていた。


死が、再び迎えにやって来る。


一度目は、三百年の昔。
女と出会い、里を捨て駆け落ちし、子をもうけ。
化物と村民に裏切られ、妻子を逃がす為、山道に陣取った一ヶ月。
一睡もせず、一瞬も気を緩めず、向かってくる人間を残らず蹴散らし、弁慶のように立ち続けたあの日。
月を三十度見上げた末、出稼ぎに来た遠方の勇者に首をくれた。
思い出す、あの時の冷たさ。

気付けば冥府の川辺に立っていた。
死神は転生を待つようにと言ったが、それを拒否した。
 妻子が来るのを待っていたい
その一念を、死神相手に押し通した。
ただひたすら待った。
その時の、永遠とも一瞬とも言えた時間。

三百年後、異変が起きた。
現世から魂を呼び込む、外法が使われた。
その時に死神と契約をしたのだった。

 再びこの地に戻った時は魂を差し出す

しかし、輪廻にはもう、戻れない。





「輪廻の輪を外れた者、か」
風月堂は、神妙な顔つきで医者に向かった。
従者の小雑賀が不思議そうな顔をしながら、診察を見守っている。
診察と言っても、寝たままの風月堂に対し、古錆びた曲刀を翳して何か念じているだけ。
「蒼雲先生、従者が不思議がっている」
蒼雲と呼ばれた若い医者は、哂いながら曲刀を置いた。
「そうだろうね、うん。大丈夫、斬ったりはしないよ、こんななまくらではね」
「それで蒼雲先生、私はどうなのかな」
「駄目だ」確信的に、はっきりと医者は答えた。
「気脈がほぼ途絶えているから、どれだけ力を持っていてももう無理だ。
 道が無ければどれだけ物があっても運べない、という事だね」
「上手い喩えだな…それで、後どれくらいだね」
「生きてるのが不思議なくらいだからね、そうだな…」
医者は暫く思案した後、指を三本立てて見せた。
「後三週間、くらいだろう。勿論、三週間の間にも悪くなってくる。
 身体の末端から徐々に動かなくなっていき、五感もどんどん失われるだろう。
 言い方は悪いが、動けるうちに用事は済ませておいた方が良い。出歩くなら今のうちだ」
風月堂は、腕とふくらはぎに、ぐっと力を込めた。
「嗚呼、まだ自力で歩けそうだ」
そう言って、医者と従者の目の前で布団を退かして立ち上がる。
肉体は、何ら変わっていない。
だが、肉体に宿る魂と、神経を流れる気の脈が、もう朽ち果てている。
内側から完全に壊れる前に。
「さて、時間は無さそうだ」
やらねばならない事が、ある。

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2010.01.10 | | Comments(0) | Trackback(0) | Last Memory

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