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獣が残した呼声

無様なものだ 主殿
興味深い生であったが それもこれで終いか?
短き芝居だな もう少し楽しませてくれると思っていたが
終わるのならば仕方あるまい 意志がなくては木偶と変わらぬ
カーテンコールの無い芝居だ 最期に出てきて顔くらい出せ
それが下々に対する礼節と言うものだ
古く 若い狐よ











黒檀の色をした巨大な馬が、庭先に臨む。
それは馬の姿をした、この世に在らざる者。
輪廻を外れ、生物の枠を抜け、死者でも無く、精霊でもない。
人として生まれ、あらゆる概念から抜け出た先の、精神そのもの。
その眼前には、同じく輪廻を外れ、人として終わる者。
強さと精神力を持ったが故に抜け出たのに、そこで終わろうとする者。

「何故、人に拘るかね」

風月堂は、黒馬の顔を見る。
かつては人だったもの。
今は生も死も無く、存在する化物。
まるでお前もこうなれると言わんばかりに、問われた言葉。

「人だから、かな」

本当は答えなんて無い。
ただ、最初から決めていた事。
「満足したから、とも言えるか」
里を建て直し、伴侶を娶り、子を育てた。
「十分に生きたよ、私は。
 やるべき事はやった。私にはもう、力尽きた所から這い上がる動機が無い」
一度は死んだ身。
身体に流れる血も、魂も、冥府の風に穢されたまま。
「土に還るには、まあ、妥当な所だろう?」
茶化しながら、笑う。
馬はつまらなさそうに、口元を歪ませて首を傾ける。
「私は己が特別だと思った事はない。
 だが私のような所まで行き着いた者を、ついぞ見つける事はできなかった。
 主殿、お前は来る資格を持っている。
 確認するようだが、それは求めぬのだね?」
珍しく執着する様を見せる、人で無き者。
風月堂は、優しく、子供に教えるように言った。
「嗚呼、私は人でいい」



「つまらん」
馬が一言、苛立ちを含んだ言霊を吐いて、その身体を霧に変えていく。
彼は今、己の興味のままに生きる、風と同じ存在。
風月堂が人である以上、そこに留まる理由はなかったのか。
隠し切れなかった強い気配は、遥か空の向こうに消えていく。
J、と呼ばれた、かつて人だった者。
その姿を、風月堂は二度と見る事はなかった。

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2010.01.10 | | Comments(0) | Trackback(0) | Last Memory

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